コラム

筋膜と合気道 人体の情報操作と回復 “皮取り”

皮取りの表紙

筋膜とはその名の通り、筋肉の膜。コラーゲン、エラスチン等から成る。たんぱく質の繊維が縦横斜めに織り込まれた網目状の膜で、網目の間には血管と神経が通っています。

そして筋膜は筋肉同様、柔らかくも固くもなります。筋膜が固くなってしまうと筋膜の間を走る血管や神経にも影響が生じ、血行や感覚が鈍くなるのです。

合気道には、相手と一体化して敵対する力を無効する「合わせ」と呼ばれる概念があります。「合わせ」には様々な種類と方法が存在し、井口流合気道には、その一つの手段として、筋膜に張力を与える事で相手の感覚、体内の情報を混乱させる皮取りと呼ばれる技術があります。

そして皮取りは武道の技だけでなく、健康回復の手段にも使用することが可能。本記事では皮取りの概要と、皮取りの武道以外の側面、健康効果について紹介します。

皮の合わせ 皮取り

敵対する相手に本来の力を発揮できなくする井口流合気道の技術、皮取り、その名の通り、皮を取るように引っ張る事で、相手に己に加えられている力の方向を誤認させ、正しく対処させなくする技術。物理的には筋膜を引っ張る事で情報伝達を乱す技術、精神世界的には内殻の気の流れ※を切る、または乱す技術とされています。

※気の構造について

気は人体の奥に存在する核の気、皮膚の下を流れる内殻の気、皮膚の表面から放射されている外殻の気、人体の外側を覆い、意識の向かう方向に伸びる最外殻の気に分類されると井口流合気道という流派では考えられています。

気の構造

  • 核の気:体内を満たす鉛のような重い液体のイメージ
  • 内殻の気:皮膚の下を流れて核の気を覆う流体のイメージ
  • 外殻の気:皮膚の表層に放射されている霧や靄のイメージ
  • 最外殻の気:視覚、聴覚および意識に応じて動く雲のイメージ

皮取りのポイントは点で押し込まない事。点ではなく面。接触面全体で均一に圧力をかけ、圧力は筋肉の流れの方向に沿って、内側斜め45度方向に加えます。

また、接触部位から離れた場所も連動して動く、例えば腕の皮を取ると、背中の皮までつられて引っ張られるイメージ、人体を覆う膜を引っ張るイメージで行う事で、皮取りの効果がアップします。

更に、気を流すイメージも有効。気を流すイメージを持って圧をかけると、人体はそのイメージに応じて目に見えない程微かながらですが動きが変化します。これが有効。

そして頭で認識できない程、微細な情報も触覚はキャッチしています。気のイメージを伴った圧が加わると、受け手はただ圧をかけられているだけではない事を無意識領域で感じ、身体もそれに応えます。イメージの力を活用しましょう。

皮取りと筋膜リリース

毒と薬は表裏一体。乱す事が出来るなら、整える事も出来る。筋膜は固くなっても、熱と圧力を加えることで、元の状態に戻る特性を持っています。揉み解したり、叩いたりしなくても、一定の圧力を加え続けるだけでも筋膜は柔らかさを取り戻すのです。

そこで皮取り。自分の筋膜に皮取りで斜め45°方向へ圧をかけると、圧力による回復効果に加え、情報を乱す効果によって無駄な緊張と力みが消えるため、回復効果が単に圧を加える時よりもアップします。

疲労した部分に、怪我をした子供に母親が優しく手を添えるように、自分の体に触れて、皮取りを行ってみましょう。皮と取った後は手を動かさず、圧を一定に保ちつつ、体内に気を流し込むイメージで30~60秒程度行うと、筋膜の状態が回復していきます。

手で皮を取るのが難しい部分の場合は、水を入れたペットボトルや、テニスポール等で圧を加えてみましょう。皮取りは手のひら以外でも行う事が可能です。井口流合気道の技術、皮取りで、健康な体を取り戻しましょう!

皮取りについて補足

皮取りは筋膜を引っ張るだけの技術ではく、人が今自分に加えられている力の方向を、触覚だけでなく視覚および、過去の経験をも使って認識しようとする習性も利用した技術です。

「この形ならこの方向に力が来る。」「こういう状況であれば、この方向に力をかけてくるのが普通。」ところが皮が引っ張られている(引っ張られている事に気が付けない事の方が多い)と、見た目の形と力の方向が一致せず、脳は混乱する。混乱の最中に技をかけると力感なく技がかかる。これが皮取りの基本です。

皮取りの初歩については、拙著『合気道ベースの護身術 IAM護身術 基礎技法 骨の技術・皮膚の技術』で紹介しております。興味を持たれましたらご一読下さい。