一人稽古法

五感を鋭く磨く修行法 キーワードは背骨

五感を鋭く磨く修行法

音が聞こえすぎる、動きが見えすぎる。脳に流れ込んでくる情報量が多過ぎでキャパが足りなくなる。

モンゴルで毎日6時間以上かけて馬で移動し五日間旅をするというツアー、朝日と共に目覚め、日が暮れると寝るという生活をした後の事です。

ほんの数日でも数か月分の修行の効果があったように感じています。この記事では大自然の修行体験、五感を鋭くする修行方法、脳を開く修行方法を紹介します。

結論から言うと、単調な動きまたは一つの対象に全神経を集中し、長時間行えばどんな事でも五感を鋭くする事が可能です。ただし、背骨を真っすぐに伸ばす事が必要

大自然がもたらす効果

「360度の大草原を馬で駆けたい。子供の頃ジーンズのCMで見た光景を再現したい。」と歳をとってからも思っていました。そこで国内で練習を積んだ後、ハードなモンゴル乗馬ツアーに参加。

方向が分からなくなりそうになる360度緑の海、足場の悪い岩がゴツゴツした山間、時には小川も渡って旅をしつつ次の宿営地を目指すツアーという名の修行です。参加者は筆者一名でした。

このツアーで乗ったモンゴル馬は、原住民が普段使用している馬。人慣れしていないので、突然暴れる事が多々あり気は抜けません。

己の軸を制御しつつ、脱力し、馬の動きに合わせて動く・・・淡々と毎日約6時間。振り返ると良く過ごせたものだと思います。

夜は草の擦れる音、遠くで馬が歩く音が聞えるのみ。二日目以降は全くwifiが繋がらない環境だった事もあり、日暮後は直ぐに眠っていました。

そしてゲルの屋根は南側を空けて採光している(透明ビニールがあるだけ)なので、朝日が差し込むと自然に目が覚めます。日の出とともに目覚め、日の入りと共に眠る。原始的な健康生活。

筆者は日の出と日暮れの際、大草原でヨガと立禅をして過ごしていました。人工音は一切ない静寂の空間。

容易にトランス状態に入る事ができ、風の音、揺れる草の音、その動き、遠くの馬の動きや足音が聞こえだしました。

「空手家が山籠りするのは、大自然の中で肉体を追い込むと、感覚センサーの感度が街中と比較にならないほど高感度になるからではないだろうか?」

と意味がないような山籠もりの意味の一端を垣間見た気がします。余計な情報がない大自然で己の体に集中するだけの時間を設ける事は、あらゆる身体を使う物事の上達に有効であると思います。

単調動作の繰り返しがトランスをもたらす

瞑想法の多くは単純動作の繰り返し。馬による旅も単純動作の繰り返しです。馬の動きに合わせて体を淡々と動かすのみ。空の青と草原の緑しかない空間の中で。

単調動作であればどんな姿勢でも良いというわけではありません。背骨、軸を真っすぐに保つ事が重要です。馬で歩む際は、坐骨で鞍に座り、頭頂部まで背骨を一直線に立てた状態が基本となります。

瞑想や座禅も背骨は真っすぐ上に引き上げて座るのが基本。気の共鳴の記事で紹介した、アダム徳永先生も、とある動きの際、「背骨を真っすぐにする事。曲がっていると気が通らなくなる。」と仰っていました。筆者の学んでいる武道でも背骨の重要性は口酸っぱく指導されます。

背骨には脳と直結する神経の幹が通っている事を鑑みると、繊細な感覚を使う動作、五感を鋭くする行法のためには、背骨を真っすぐにして、余計な負荷や情報を取り除く必要があるのは当然なのかもしれません。

脳が覚醒すると刻(とき)が見える

ゴツゴツした山の斜面を降りている際、馬が暴れ出して落馬しました。この時、時間の流れがスローモーションになる体験ができました。

落馬後、斜面で体が跳ね、頭頂部が地面に接した瞬間。

  • 「このままだと首がイカレる、首を丸めて背中に力を流さないとヤバい。」
  • 「次は背中も丸めて順番に地面に体をつけていけばダメージは少ない。」
  • 「合気道の受け身使えて良かった。護身術習っていて助かった。」
  • 「こうやって咄嗟に動けるとは自分はなかなか大したものじゃないか。」
  • 「もし大怪我して帰国する事なってたいら親は心配したよなぁ」

 

首から肩までが地面に接しているコンマ数秒の間に様々な思考が頭の中をよぎったのです。そして、心は穏やかで、何の感慨もなく淡々としていました。

「これが時間の流れが緩やかになる現象か!!」と最後に油断、興奮したので通常世界に戻り、まだ完全に体が丸まっていなかったため腰を強打しました。

しかし頭頂部が地面に接した瞬間は、本当に時が止まったような感覚があり、しかもそれを何の感慨もなく見つめていました。

生と死の狭間、生命の危機に瀕したから上記のような感覚が得られたのかもしれませんが、数日間の原始的生活で脳が開いていた事も大きな影響をもたらしていたであろうと思います。

ちなみに筆者は南米のシャーマンが用いる秘薬、アヤワスカを試したことがあり、その際も時の感覚が暴走しました。秒針を眺めているのにいつまでたっても動かない。この話はまたの機会に。

日常生活で出来る五感を鋭くする修行

一般的に知られている瞑想の方法に、心臓の鼓動に意識を傾けるやり方(心音瞑想)、時計の秒針が動く音に意識を傾けるやり方があります。一つの対象に意識を全て注ぐ、マインドフルネスというやつです。

モンゴルの大草原まで赴かずとも、背骨を真っすぐに維持し、深い呼吸を続け、脱力し、何か一つの対象に意識を注ぐ。これだけで、五感を鋭くする事が可能です。

対象は何でも構いません。自分の呼吸音、風の感触、食事の際の味覚でもOK。複雑な事は不要。ただ淡々と続ける事。これだけです。

立禅を行いながらやる事で更に効果がUP。立禅のやり方については下記参考記事中の「イメージ通り立つことが出来るか?」をご参照ください。

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五感を鋭くする修行の副作用と対策方法

馬旅最終日は空港まで車で移動する際、車のエンジン音がうるさくて仕方ありませんでした。そして空港。人の動き、声、電光掲示板、土産物屋に積まれた幾多の品々、情報の洪水で気分が悪くなり、ベンチで横になりました。

しばらく時間を置くと自衛作用が働いたのか、感覚が鈍くなり、情報が流れ込んでこなくなったので楽になりました。と、喜んだのも束の間。帰国すると日本の街中の情報量の多さに再び圧倒され、非常に苦労しました。

日本の街は情報が飛び交い過ぎて情報の濁流。近代に達人が生まれないのも当然と思います。脳が開いた状態では日常生活に支障をきたす事でしょう。

禅には、中途半端に能力を覚醒する事で意識が拡張しすぎて、心のバランスが崩れた状態に陥ってしまう、魔境と呼ばれる状態があります。

筆者が帰国時に陥ったのは魔境に近い状態でした。人の声や動きが分かりすぎて気分が悪くなったのです。

なお、魔境から手っ取り早く抜け出す方法がグラウンディングという手法。地面を足で踏み鳴らす事で精神が安定してきます。

人前でやるのは控えた方が良いですが、一人で感覚を磨く稽古をしている時に気分が悪くなった場合は行って下さい。

まとめ 五感を鋭くする修行法

  • 淡々と、しかし身体感覚に集中して同じ行為を繰り返す。
  • 特定の対象(心臓の鼓動、時計の秒針が動く音、風の感覚etc…)に意識を集中

どちらも脱力して背骨を真っすぐに保つ事で効果が得られる。

たったこれだけ?仏陀が悟りを得たのはただ座って瞑想していた時です。ただ一点に集中する。意外と入り口は難しいかもしれませんよ。お試しあれ。